
ナミダメ
佐藤方衣子は悲しんだ。
彼女は彼女の発した問いの1つ(※注)に答えようとしたのであるが、
あまりにも現実の自分とかけ離れている世界のお話すぎて、
簡単に答えることができなかったのである。
今はもはや、彼女にとってその問いは、彼女自身の問題となった。
「そうだ。皆と一緒に泣こう」
それが、間違いだった。
世界中の悲しみを理解して泣こうとこころみるも
いまひとつ臨場感に欠け、一向に泣ける気配がない。
それは人の気持ちを理解しようと努力した証拠にこそなったが、
肝心の涙というものは一滴すら流れずに終わってしまったのだ。
このことは彼女を狼狽させ且つ悲しませるには十分であった。
「何たる失策であることか!」
彼女は許されるかぎりのありとあらゆる手段で泣いてみようとした。
人々は思いぞ屈せし時、こんな具合に手を尽くしてみるものである。
けれども彼女のそれは、もはや目的を忘れ、あらぬ方向に向かっていた…
…to be continued…
※注…「今、この瞬間に、どっかで火山が噴火している、
誰かが飢餓で死んでゆく、何かのテロが起こっている。
あなたは平和ですか?」【『人試問題集』Q.68より】